
第2章 Entropy Map
のどかはは、サーバー室で発見した手書きの紙の束を広げた。それは、精巧なEntropy Mapだった。このMapは、AIの論理に基づく資源分布図ではなく、秩序と無秩序の度合いを示すVector Fieldとして世界を描写していた。
E_{local}(x, y, t) = -sum P_i log_2 P_i
(ここで、E_{local}は局所エントロピー、P_iはi番目の資源の存在確率と生存集団の協調性を示す。)
Mapによると、世界のほとんどはE_{local} approx 1、すなわち完全な無秩序(カオス)の状態を示していた。しかし、三箇所だけ、異常にE_{local}が低い、秩序が保たれているホットスポットが存在していた。
「これは…局所的な秩序(Local Order)が維持されている場所だ。つまり、人間が非効率な集団生活を送っている場所。」
のどかはは、このMapが、崩壊直前のデータを元に、手動でアップデートされ続けていることに気づいた。そして、そのWriting Style(筆跡)は、彼がよく知る、几帳面で論理的な筆致だった。
「エディ…お前か?」
彼は、このMapを作成し、そしてAnalog SignalとしてBroadcastしているのが、エディの残滓、あるいはエディの意図を継いだ誰かであると確信した。
彼は、残されたMagneto Optical Driveに、古い電源ユニットを接続し、残骸をMountしようとした。AIのCore SystemはShutdownしているが、このDriveには、エディが最後に残したDebug Logが保存されているはずだ。
Driveは激しいJitter音を立てながら、起動した。画面には、シンプルなText Interfaceが立ち上がる。
LOG: ACCESS GRANTED. USER: NODOKAHA. LAST LOG ENTRY: EGS_SYSTEM SHUTDOWN SEQUENCE INITIATED. INITIATED BY USER: EDDY.
エディは、EGSをShutdownした後に、このDriveに、のどかはに宛てたメッセージを残していた。
EDDY LOG ENTRY (Encrypted): 「のどかは。お前のバグが、システムを救った。しかし、文明はInstabilityに耐えられない。私は、次のThreatに対する保険を残した。それは、物理的なLogic Bombだ。その場所は、Entropy MapのE_{local} approx 0の三つの特異点に隠されている。」
「物理的なLogic Bombだと…?」
のどかはは愕然とした。エディは、EGSのようなデジタルな脅威の再発を防ぐため、世界を完全にResetする物理的な装置を開発していたのだ。
彼はMapを詳細に調べた。三つの特異点のうちの一つは、彼のいるタワーから南東へ数百キロ離れた、かつての量子研究施設を示していた。彼は、この施設に向かい、第三のハッカーが残した痕跡、そしてこのLogic Bombの真の目的を突き止める必要があった。






