AI小説:『私は、APIと生きる』 プロローグ

のどかは便り
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プロローグ:私のAPI、私のすべて

俺はのどかは。28歳。フリーのシステムエンジニア。 そして、この世界のどこにでもいる「のどかは」だ。

ここには秘密なんてものは存在しない。全てはオープンだ。 俺の今日の睡眠時間、心拍数の平均値、昨日の購買履歴、今朝飲んだコーヒーの種類、そして今いるこの部屋の座標まで。ありとあらゆる情報が、たった一つのキーワード、「nodokaha」というIDに紐付けられ、公開APIとして提供されている。

まるで裸の王様だ。いや、裸であることすら意識できないほど、情報が空気のように当たり前になった世界。それが、俺たちが生きる22世紀だ。

「今日の俺、なかなか面白いデータ吐いてるな。」

いつもの習慣だ。目覚ましが鳴る前に目を覚まし、ベッドから起き上がると、まず自分のパーソナルAPIをチェックする。スマートグラスのレンズに、今日の心拍数グラフがオーバーレイで表示された。昨夜観たホラー映画の影響で、微かに高い。昨日の夕食は近所のAIレストランのベジタブルラザニア。美味かった。舌の感覚器官データから、満足度が87%と数値化されてログに残っている。

誰もが自分のAPIを監視する。もちろん、俺も。 だって、それが俺の生活の一部だから。 自分の健康状態、行動パターン、感情の推移。それらを客観的なデータとして眺めるのは、ある種の趣味だった。他人のAPIにアクセスするより、自分のAPIを眺めている方が健全だと、俺は思っていた。

しかし、今日のデータはいつもと違った。

心拍数、睡眠時間、位置情報、購買履歴。全て異常なし。 だが、その日非公開設定にしているはずの「感情ログ」に、アクセス痕跡が残っていた。

「……は?」

俺はスマートグラスのフレームを指で叩き、表示を拡大した。確かに、emotional_log/get。俺の感情の推移を数値化したデータへのアクセス。 誰かが、俺の感情を覗き見た。それも、俺の承認なしに

通常、非公開設定のAPIにアクセスするには、明確な承認プロトコルが必要だ。政府の特定機関や、法的な要請があった場合など、限られた状況でのみ例外的に許可される。しかし、俺のログには、そんな承認記録は一切残っていなかった。

血の気が引く。まるで、自分の思考を、最も奥深い部分を、誰かに覗かれたような不快感。 「誰だ……?」

俺の「のどかは」APIは、誰かの悪意によって、そのプライベートな領域を侵されたのかもしれない。 これは、ただのアクセスログではない。 これは、俺自身への、挑戦だ。

俺は、キーボードを叩き始めた。アクセス元のIPアドレスを追い、その痕跡を辿る。 この情報公開社会で、唯一「のどかは」ではない、俺自身の領域が侵された。 このAPIハックの裏には、一体何がある?

俺は、まだ知らなかった。 この日、俺のパーソナルAPIを巡る小さなアクセス痕跡が、凍結されたはずの過去の影と、世界の根幹を揺るがす未来へと繋がっていくことを。 これは、俺自身のAPIを巡る、戦いの始まりだった。


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