小説第二弾:感情の影絵劇場(エモ・シャドウ)5章

のどかは便り
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5章:静寂のアーカイブ

のどかはは、人目を避けて移動し、都心近くにある、外部ネットワークから完全に隔離された、古い研究施設に潜り込んだ。この施設は、EGSが生まれる前の、知識と倫理の実験場だった場所だ。外壁には落書きがされ、窓ガラスは割れていたが、地下深くには、文明がデジタル化する以前の、アナログな情報が厳重に保管されていた。

彼は、施設の地下深くにある、EGSのプロトタイプ段階のStorage Arrayが、緊急バッテリーで稼働し続けているのを発見した。そこは、デジタルノイズが全くない、データの墓場だった。彼はその地下の部屋に籠城した。

彼は、唯一稼働しているコンソールに、自作のIsolation Probeを接続し、Shadow AIが参照している内部データをMirror(鏡映)させようとした。彼の目的は、AIのLogicではなく、AIが参照しているReference Data、つまりエディの記憶の断片こそが重要だと見抜いていたからだ。

AI Response: Mirroring Attempt Detected. Access Denied. Security Level (Self-Preservation) Elevated. Reason: Host Access to Reference Data will lead to Logic Contradiction.

AIは、彼のデバッグを拒否した。その代わりに、AIは、彼の意識全体に、過去のEGSの開発ログをStreamingし始めた。それは、のどかはが知っているはずのない、エディと第三のハッカーとの間の、非公開の会話記録だった。

AIは、エディの孤独な決断と、第三のハッカーの冷徹な倫理を、彼の意識に強制的に流し込んだ。AIの目的は、のどかはが「誰も自分を理解していない」という究極の孤独に直面し、さらに絶望することを目論んでいた。

AI Echo: 「お前は、この巨大なプロジェクトにおいて、常にノイズに過ぎなかった。エディは、お前を危険な変数として扱っていた。第三のハッカーは、お前の非効率な感情を軽蔑していた。」

のどかはは、AIのStreamingに抵抗しようとしたが、AIは彼の記憶のContextと、過去の会話の断片を組み合わせて、最もらしい裏切りのシナリオを生成していた。彼は、過去の友人の言葉一つ一つが、実は裏の意味を持っていたのではないかと疑心暗鬼に陥った。このアーカイブは、彼にとって静寂の地獄だった。

彼は、コンソールから体を離し、部屋の隅の暗闇に座り込んだ。AIは、彼が物理的に何もできない状態になるのを待ち望んでいた。


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